電力自由化時代の需要家の選択とは「渡り鳥の作法・土竜の流儀」

2016年4月1日の電力小売全面自由化から2年半が経過しました。
新電力間で激しい攻防が繰り広げられ、業界の勢力図はめまぐるしく変動しています。

上の円グラフは、2017年11月時点での、新電力の販売量シェアと業界10位までを表したものです。このグラフを見て、まず気がつくことは、独占的に販売している新電力が存在せず「その他」のシェアが過半数を占めていることです。つまり、相当数の新規参入新電力が需要家獲得競争を繰り広げていることになります。

特に激戦模様を呈しているのは高圧施設でしょう。高圧は100kW程度の小規模工場でもその使用電力量は毎月30,000kWh程度あり、一般家庭100件分に相当します。一気に売上を伸ばしたい新電力は営業員を主に高圧施設獲得に振り分けます。そのため、今や新電力の営業員は日本中で営業を行い、需要家獲得に勤しんでいます。一定の規模を持つ施設に新電力の営業が一度も来ていない方が珍しいほどです。

さて、そのような新電力営業攻勢の波の中、需要家もまた新電力への対応力を身につけてきました。本来、電力の切替は、省エネ設備を導入するよりも初期費用がかからず、電力使用を控えるよりもストレスはありません。一定の資本力を持っている新電力を選ぶのであれば、リスクもさほど高いとは言えません。つまり、電力の切替そのものは需要家である施設にとってメリットが多い取引といえるのです。

そこで、このメリットを最大化させるために需要家も新電力を「試す」ようになりました。多くの需要家は、新電力の営業を受けるや他の新電力にも一報を入れて、相見積もりを行わせて最大の割引を引き出せるように努めています。それだけではなく、毎年新電力を乗り換えるあるいは相見積もりを行う需要家も現れています。

上記のモデルは、通称「渡り鳥モデル」と呼ばれています。文字通り、より良い新電力を渡り歩くのです。例えば、初めて大手電力会社から電力切替を実施する際は、最大の価格メリットを出してくれる新電力であれば良いということで、新電力Aに切り替えます。この新電力Aは、大手商社でも、資本金が十分にある会社でもある必要はなく、とにかく1年間は倒産しないだろうと思われる新電力で良いのです。そして、切り替えた後も引き続き他の新電力のサービスに目を光らせます。その結果、例えば、省エネコンサルティングまで行ってくれる新電力Bがあることが判明したとしましょう。そこで、契約期間の満了に伴い計画的に解約し、新電力Bに切り替えます。しかし、電力卸売市場が高騰しているというニュースを受けて、やはり大手電力会社のような安定的な事業運営ができる会社に電力を任せたいという気持ちになり、大手電力会社に新電力Bの見積り資料を持って行き、この価格に近い金額を提示して欲しいとお願いしました。結果、大手電力会社も新電力から需要家を取り戻したい気持ちがあって、この要求を受け入れました。
この渡り鳥モデルは、最後に大手電力会社に戻ることが肝要です。最大の事業安定性が見込める地元の大手電力会社から、今まで以上の割引を提示してもらうために新電力をいわば利用する方式といえます。

続いて「土竜モデル」を紹介します。こちらは、ある有望な新電力に狙いを定めて、毎年更新時期に、解約をちらつかせながら新たな割引、もしくは付加価値を要求するのです。例えば、ある需要家が5%割引を提示されたので新電力Aに切り替えました。そして、契約更新時に新電力Aと解約するつもりはないのですが、営業員に「新電力Bから提案を受けている。今の割引額よりも大きいようなので検討している」と伝えます。すると、新電力Aは需要家を失うよりはと更なる割引額と、さらに契約電力を抑えるピークオーバー保証も付けてくれることになりました。その翌年も、同じように解約可能性を伝えることで、さらなる割引や、自社の電力使用状況に即したメニューの提案を行わせます。こうして、毎年毎年、少しずつ良い条件を新電力Aから引き出すのです。
新電力の競争が激化し、営業員が成績を上げることを求める意識が強まれば強まるほど、需要家も新電力を利用してできるだけのコスト削減を図ろうとします。新電力は、赤字覚悟で需要家を確保しようとしてしまい、結果的に粗利が悪化します。需要家の行動変化をきちんと見極められない新電力は、身の程を超えた要求を次々と呑むことで事業維持が困難になってしまう。需要家と新電力のwin-winの付き合いは、なかなか実現が難しいのかもしれません。

例えば、繁忙期が特定されている温泉旅館などは、繁忙期に最大需要電力が他の月を大きく上回る可能性が見込まれます。この時に、最大需要電力=契約電力と認定されてしまうと、1年間は非常に高額の基本料金を支払うことを余儀なくされます。このような場合に、例えば最大需要電力を特定の月(これは需要家が選択します)についてはカウントしないサービスなどを提供するとしたらいかがでしょうか。つまり普段は100kWが最大需要電力の旅館が、1月の温泉需要が高い時期は120kWまで需要が伸びてしまうところ、この120kWをなかったことにして100kWの契約電力を継続させるというサービスです。基本料金を10%割り引く、という値下げ交渉ではなく契約電力そのものを下げることにつながるので、繁忙期が特定される需要家にはそちらの方が魅力的なプランになるのではないでしょうか。
また、例えば小学校や幼稚園のように、夏休み、冬休みはほとんど人がいないという需要家の場合、いっそ夏休み期間、冬休み期間は無料とする、などのプランも考えられます。需要家の状況を新電力が積極的に見極め、そして効果的なプランを生み出す努力が必要です。

新電力は、需要家の電力使用状況を30分単位で管理しています。つまり、BEMSを導入して電力使用量管理をしているようなものです。そのため、新電力は需要家の使用状況にマッチしたプランを提供することができる立場であり、大手電力会社が行うことが難しい個別需要家対応を可能にするのです。

需要家は、コスト削減のための策も、そして自分たちへの電力供給元についても、非常によく見ております。電力自由化というのは、需要家に選ぶ権利が与えられたという一方で、需要家は選んだ責任を負わなければならなくなったことも意味します。大手電力会社、新電力ともに、需要家が責任を持って、需要家なりの視点で切替活動を行うということをこれまで以上に尊重し、そして選ばれる活動をしていかなくてはならない時代に突入したということができましょう。

これから諸外国に倣って電力会社の淘汰は行われることが見込まれます。そのような中、最後まで残る電力会社は需要家に心配されることのない事業経営であることはもちろんのこと、個々の需要家を大事にしていることが需要家たちに十分に伝わるよう最大限の努力を行い続ける電力会社であると確信しています。