一から学ぶ電力自由化(第八回)電力自由化の失敗

電力自由化

 電力自由化時代に、およそ500社の新電力事業者が登録し、そのうち約300社が販売を開始しています。しかし、日本より前に電力自由化を開始している諸外国の状況を見てみると、新電力事業者の多くは淘汰の波に呑まれ、結局は少数の電力事業者に落ち着くという傾向にあります。そして、淘汰が進めば進むほど、最終的には資本、発電所、電力運用ノウハウに秀でる大手電力が再統一を果たしておしまい、という結果になりかねません。大手電力会社の各地域における一党独裁制に様々な問題があるとして起こった電力自由化議論が、根底から崩れてしまうのです。

 また、電力自由化をあまりに市場原理に委ねすぎると、巨大な電力会社が破綻してしまうことなども考えられます。

 各国で起こった実情を合わせて、今後の日本の自由化が進展するか、失敗するかについて、論じていこうと思います。

 

 世界で最も早く電力自由化を実現したイギリス。しかしイギリスの電力事情を見てみると、電力自由化によって電気料金が下がるどころか、むしろ値上がりしてしまったという結果を招いたことが伺われます。どのような状況だったのでしょうか。

 イギリスは、第3回でも紹介したように、国営の中央電力公社が、電力供給を独占的に行っていた状況を、マーガレット・サッチャー首相によって民営化され市場原理が導入した結果、国内の需要の9割近くを占めるビッグ6体制が出来上がりました。しかし、この6社は独占体制を構築するために、①全社、電力・ガスのデュアル・フューエルを実施するという、「サービスの陳腐化」、②1社につき数十にも及ぶメニューを用意する「料金プランの乱立」を行い需要家の切り替え意欲の減退を図りました。また、電気料金比較サイトへの紹介手数料を手厚くして、比較サイトの本来持つべき中立性、公平性にも影響を与えました。

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 その上で電力・ガス価格の同時期の一斉値上げを実施し、燃料価格が高騰していたことも相まって、あっという間にイギリスは電力の価格が高い国になってしまいました。2004年と比較して、現在のイギリスにおける電気料金は倍近くに上昇しているといいます。

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出典:DECC(UK Department of Energy and Climate Change)

 続いて、ドイツの電力自由化について触れておきます。残念ながら、ドイツの電力自由化は、消費者にとって成功したとは言いがたいからです。もともと、ドイツには歴史的な背景もあり、電力会社は地域ごとに供給会社がありました。現在でも、地域限定の電力会社をメインに1000以上もの電力会社が、合計すると1万種類以上に及ぶ電気料金プランを提供しています。これでは、消費者は何を選んだらいいかわかりません。

 本来、このような場面でこそ電力料金比較サイトの出番なのですが、電力料金比較サイトも乱立しており、その数は100を数えます。また、紹介先の電力会社からリベート受け取るなど、中立性にも問題がありました。消費者にとっては複雑な電力自由化が実現してしまったのです。また、中央政府が再生可能エネルギーを大量導入させるという政策目標を達成させたいがために、送配電機能を持つ大手電力会社を優遇し、新規参入者の競争環境を大手電力会社に構築させるという不平等な仕組みでした。その結果、多くの新規参入事業者たちは撤退していきました。一時、通信分野から参入したTeldafaxや、独立ベンチャーとして参入したFlexstromらが、数十万世帯の顧客を確保したこともありましたが、それらの企業は倒産してしまいました。特に、Teldafaxは固定電話と電力・ガスのセット販売を強みとしていましたが、参入から5年後に、70万世帯の顧客を抱えたまま倒産しました。これら顧客の多くが、プリペイド制のプランで、既に前払い済みでした。また、Flexstromは60万人の顧客を抱える最大の新電力でしたが、やはり2013年に倒産し、同じくプリペイド制の多くの需要家に損害を与えました。このように、新規参入者の失敗・倒産により、顧客は多くのお金を失い、これらの事例がニュースなどで伝わり、すっかりネガティブなイメージを持つに至ったのです。

 最後に、電力自由化の理想を目指しすぎたアメリカの事例を紹介します。こちらは第3回でご紹介したカリフォルニア州において発生した電力危機が当てはまります。

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 同州の問題は、人口増加と電力需要急増が、マッチしていなかったことに尽きます。

 また、エンロン社のようなエネルギーブローカーが登場できる状況が制度的に可能という時点で、やはりカリフォルニア州の電力制度は失敗例であったというべきです。

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出典:世界銀行

 

「カリフォルニア危機は、日本でも発生するかどうか」という点につきましては、長期的には発生する可能性があると見込まれています。電力会社の総括原価方式が終了した場合、送配電部門の予算はこれまでよりも減少し、メンテナンスに十分な人員や費用を回すことができなくなるのではないかという懸念があるからです。日本の停電時間が世界でも最優秀ともいえるほどの質を保っているのは、大手電力会社の送配電部門の技術やノウハウに基づくものであることは、忘れてはいけません。

 また、徐々に容量を大きくしていく日本の電力市場JEPXでも、2017年12月〜2018年2月には寒波の影響で市場価格がこれまでにないほどに高騰しました。燃料を輸入に頼る日本では、電力の逼迫という問題は常に抱えていることが明らかになりました。このような中、市場高騰を人為的に引き起こして利益を目論むエンロン社のような会社が現れる可能性はあり、発電所はあれど発電せずという状況下で、突然のブラックアウトというケースも否定はできません。

 

 いかがだったでしょうか。

 日本も、イギリス、ドイツ、アメリカの失敗の二の轍を踏まないとは限りませんし、日本独自の失敗をしてしまうかもしれません。大手電力会社をあまり敵視することもなく、しかし大手電力会社保護にも走らない政策という、非常に難しい舵取りを経済産業省は任されています。

 今後の電力自由化の進み方は、国民一人一人が注視していかなくてはならない課題でもあるのです。

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