省エネからエネルギーマネジメントへ。電気の基礎からもわかる重要性

日本の省エネ対策は世界の最先端レベルといわれています。それでも企業、特に中小企業にとってエネルギーコストは重い経営圧迫要因になっています。このことは、従来の省エネ対策だけではエネルギー消費に関する経営問題の解決が難しい事実を示しています。改めて電気の基礎からエネルギー消費問題を見つめると、根本的な解決策が見えてきます。

 

電気の基礎知識

電気とは、物理学的には「自由電子の動き」を指します。

すべての物質は原子からできています。原子はプラス電気を帯びている原子核と、マイナス電気を帯びて原子核の軌道を回転している電子から成っています。さらに原子核は、陽子と中性子から成っています。陽子はプラス、中性子はマイナスの電気を帯びています。原子核内の陽子と原子核の軌道を回転している電子の数は一定で、通常は陽子も電子も帯電は中性になっています。

ところが、何らかの形で電子が刺激を受けると、電子は原子核の軌道を離れた「自由電子」に転換します。この自由電子の動きが電気の正体です。

自由電子の動きには電流、電圧、電力、直流と交流などがあり、これらの動きが一般に「電力(電気エネルギー)」と呼ばれている正体です。

  • 電流、電圧、電力
    「電流」とは、自由電子の移動現象であり、1秒当たりの自由電子移動量の単位が「A(アンペア)」です。また、電流が生じるためには自由電子を吸引する力が必要ですが、その1秒当たりの吸引力を「電圧」と呼びます。単位は「V(ボルト)」です。
    そして、1秒当たりの電流と電圧の積は「電力」で、単位が「W(ワット)」です。
    また、電力と時間の積は「電力量」で、単位が「Wh(ワットアワー)です。
  • 直流と交流
    自由電子の動きには「直流」と「交流」があります。直流とは、自由電子が導体を移動する際、電流と電圧が常に一定の状態を指します。対して、電流と電圧が時間とともに周期的に変化する状態のことを交流といいます。

 

日本の電力消費の特徴

日本の電力消費は、戦後ほぼ一貫して伸びてきました。その結果、電力化率(一次エネルギーに占める電力エネルギーの比率)は1970年度の26%から2014年度は44%に伸びています(電気事業連合会「日本の電力消費」)。

日本の電力消費量は年間と1日で「電力消費の山と谷」を形成するのが特徴です。電気事業連合会の「電気事業のデータベース」によると、年間の場合、4月から電力消費量が上昇を続け7月に山(ピーク)に達します。その後下がり続けて10月に谷まで下り、12月まで緩やかに再上昇します。その後、また3月まで緩やかに山下りします。

1日の場合は、深夜1時から6時まで緩やかに谷まで下り、その後は山登りに転じ、昼の12時に山に達します。その後、12時半までいったん山下りし、13時から14時まで再び山登りします。その後は24時まで緩やかに谷へ下ってゆきます。

電力発電は、この年間と1日の山に合わせて行われています。しかし、山に合わせて発電・送電設備を用意すると、その運営に莫大なコストを要するのみならず、設備利用の莫大なロスも招きます。

このため、年間と1日の「電力消費の山と谷」の差を縮小する「電力需要の負荷平準化」が不可欠になります。そこで電力会社は、基本的に次の3つの負荷平準化対策を行っています。

  • ピークシフト
    電力を大量消費する工場等の操業日・時間帯の計画的分散や電力需要の少ない夜間に蓄電し電力需要の多い昼間に放電する蓄電池の導入など
  • ピークカット
    省電力機器・設備の導入や、冷暖房温度の適切設定などによるピーク電力消費の抑制
  • ボトムアップ
    冷暖房用熱を夜間に蓄熱し、それを昼間の冷暖房に充てる夜間電力利用機器の普及促進

電気料金もまた、負荷平準化対策を念頭に設定されています。電気料金は基本料金、電力量料金、燃料費調整額、および再生可能エネルギー発電促進賦課金により設定されています。これに定額制、均一従量料金制、2部料金制(定額料金と従量料金との組み合わせ)などの付加、「季節区分料金」設定などにより負荷平準化促進に向けた料金メニュー多様化を図っています。

 

中小企業の経営を圧迫しているエネルギー問題

電力を含む最終エネルギー消費量は「企業・事業所他部門」「家庭部門」「運輸部門」の3部門に分けて統計が取られています。

『エネルギー白書2017年版』によると、最終エネルギーの部門別消費の伸び(1973―2015年)は企業・事業所他部門が1.0倍、家庭部門が1.9倍、運輸部門が1.7倍でした。

企業・事業所他部門の場合、製造業を中心に省エネ化が進んでいることから微増にとどまりました。対して、家庭部門と運輸部門の場合はエネルギー利用機器や自動車の利用が増大していることから、エネルギー消費は大幅に増加しました。

エネルギー消費の最大シェアを占める企業・事業所他部門

企業・事業所他部門は「産業部門」(製造業、農林水産業、鉱業、建設業)と「業務他部門」(サービス産業9業種)で構成されています。エネルギー消費の伸びは3部門中最低の「省エネ優等生」ですが、消費量では最大部門です。2015年度は最終エネルギー消費全体の63.5%を占めています。また、部門内では産業部門の製造業が68.0%で、最大シェアを占めています。

一方、業務他部門の場合、1975年度までホテル・旅館が最大シェアを占めていましたが、1976年度以降は事務所・ビルが最大シェアになりました。同部門のエネルギー消費は動力・照明、冷房、暖房、給湯、厨房の5用途に大別されます。用途別の延床面積当たりエネルギー消費の推移を見ると、動力・照明用のエネルギー消費は高い伸びを示しました。その結果、同部門のエネルギー消費全体に占める動力・照明用のシェアは42%(2015年度)に達しました。

冷房用のエネルギー消費も、空調機普及により拡大しました。しかし、2000年代後半から空調機のエネルギー消費効率上昇により減少に転じています。一方暖房用のエネルギー消費はビルの断熱対策を始めとするさまざまな省エネ対策の進展により減少傾向で推移しました。その結果、2005年度から2015年度の10年間で年平均4.2%減少しました。

中小企業に重くのしかかるエネルギーコスト上昇

こうした、企業・事業所他部門のエネルギー消費問題は、中小企業の経営に大きな影響を与えているようです。

例えば、商工総合研究所は2014年9月に発表した調査研究レポート『エネルギー問題が中小企業に与える影響』において、次のような指摘をしています。

“2005年以降の原油価格高騰傾向により、78.9%の中小企業がエネルギーコスト上昇による収益悪化の影響を受けている(2008年12月現在)。また、原油価格高騰分の価格転嫁は、55.5%の中小企業が「0%転嫁」となっている(同上)。エネルギーコストの負担度合いは、中小企業より大企業の方が高い。しかし、収益力が弱く利益率が低い中小企業においては、エネルギーコスト上昇は赤字経営に陥る危険性を内包している”

同レポートが指摘した状況は、現在も基本的に変わりません。したがって、「電力料金を始めとするエネルギーコスト上昇をいかにして吸収するか」が、近年における中小企業の重要経営課題のひとつになっているようです。

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中小企業におけるエネルギー問題の抜本的解決策とは?

企業が上昇したエネルギーコストを吸収するための対策としては、サマータイム・クールビズの導入、電力消費のピークシフト・ピークカット、エネルギー効率の高い機器・設備への更新などの省エネ対策が一般的です。

しかし、中小企業がこのような省エネ対策でエネルギーコスト上昇を吸収して収益性と生産性の向上を図るのは、資力的に困難とも見られています。そこで、政府はこうした企業を支援するため、工場・事業場単位および設備単位での省エネルギー設備導入を支援する「エネルギー使用合理化等事業者支援事業」などで補助金を交付しています。

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近年の中小企業が直面しているエネルギー問題の抜本的解決策は、「エネルギー利用のムリ・ムダ・ムラの完全排除」といわれています。そのためには、中小企業こそ「エネルギーマネジメント」の導入によるエネルギー消費の全体最適化が重要といえます。本格的なエネルギーマネジメントの導入をはかるために、こうした補助金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

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