一から学ぶ電力自由化(第七回)電力切り替えの注意点

今回は、新電力事業者に切り替えるときの注意すべきポイントをお伝えしていきます。

新電力事業者は、今や500件近くが登録されており、一見するとどの会社も似たようなホームページで電力という色のつけようのない商品を販売しています。需要家も、新電力事業者を選ぶ基準を持てなくなり、結果的に一番価格が安くなりそうな新電力事業者を選定して切り替えるという購買行動を採用します。あるいは、馴染みのない会社が運営していたり、ホームページなどで魅力を感じることができない場合は、そもそも切り替える意欲が高まらず現状のままという需要家も少なくありません。

つまり、複数の会社を検討して、どこが良いかなどを見比べて、切り替えに至るという需要家は、実は非常に少ないのです。どこでも良いから、安くなるから切り替える。信頼できないから、切り替えない。この極端な二極化を生み出している要因は、何でしょうか。

2017年9月に、電力・ガス監視委員会が、消費者向けにアンケートを取りました。

その結果、電力自由化実施以降需要家が電気を供給切り替える決め手となった要素として、価格だけでなく電力の見える化サービスの提供や、料金プランの多様化、料金体系の分かりやすさなど需要家目線のサービスの充実であることが示されました。


図:電力・ガス取引監視等委員会「電力・ガス小売全面自由化に関する消費者アンケート調査結果について」より、筆者が作成

  • 自己管理を可能とする「電力見える化サービス」
    「電力の見える化」とは端的に言うと、電力の消費量をリアルタイムで確認できるようにすることです。これまで消費電力といえば毎月、電気料金の請求書を受け取った時に確認する程度で、日々の正確な電気消費量を把握する方法がありませんでした。しかし、電気の見える化を実現するシステムを導入、もしくは新電力から電力情報が送られることで、どの機器がどれだけの電気を消費しているか、電気使用量が多い部屋はどの部屋かといった、より詳しい情報をモニター表示することが可能になります。今現在使っている電気の使用量が、機器ごと、部屋ごと、コンセントごと、といった具合に具体的に見えるようになると、電力の無駄遣いがどこで発生しているか目に見えて分かるようになります。このように電力の見える化の狙いとしている効果は、自発的に省エネ行動の助けとなるというというのが大きいです。消費電力量を測定した後、どういう対策をとれば効果的に節電できるのかを検討してから実行に移すと、より効果的に省エネの成果が得られることは間違いないでしょう。実際、一般財団法人省エネルギーセンターの調査では、「電力の見える化」を導入することによって約10%の省エネが可能になるという結果も出ています。
    また、この電力使用状況を応用させて、遠隔地にいる家族の見守りを間接的に行うことも可能です。これは、ご高齢者などの生活環境において、電気使用量が普段と異なる場合に、遠隔地のご家族や近所のケアセンターなどへメール通知を行うサービスです。
    このように、電力使用量が見える化されることはもちろんのこと、使用電力量という情報をビッグデータ化して、情報の解析を行い需要家に届けてくれるという電力利活用サービスも、機能、精度、そして認知度の向上とともに需要家が選ぶ動機になってきています。
  • 料金プランの多様性
    続いて、電力料金プランの多様性です。これは単に特典がついているというプランのことではなく、需要家が自身の電力使用状況を鑑みて、最適な単価設定を行うことができるプランのことを指しています。
    まず、日本の家庭向け電力料金は、原則的に、基本料金+従量料金三段階という設計です。

    三段階料金とは、電気料金のうち「電気量料金単価」、つまり電力を使った分だけかかる料金を、使用量に応じて三段階に分けたものです。この制度が導入されたのは1974年です。1973年の第四次中東戦争を契機に、日本は省エネルギー化を余儀なくされることになりました。そこで、単価に差をつけることで、電力をより多く使いほどに高い料金を払うという、累進課税のような制度を設けた、という経緯があります。第1段階料金は120kWhまでの使用電力量に適用される料金で、比較的安い料金設定です。これは、国が保障すべき最低限度の水準の生活を国民が営めるようにという、日本国憲法第25条の生存権との整合性をとるための措置、ということです。第2段階料金は300kWhまでの使用電力量に適用される料金(北海道電力は280kWhまで)で、標準的な家庭が1ヵ月に使用する電力量を踏まえた平均的な料金設定、という位置づけです。第3段階料金は300kWh以上の使用電力量に適用される料金(北海道電力は280kWh以上)で、料金設定が高くなっています。このように、大手電力の設定する料金体系は、大手電力の一存で設計されているのではなく、国際関係の変動の中で政府の要請が多分に採用されてきたことを物語ります。

一方新電力は、選ぶのは全て需要家であるという前提で料金設計の自由が許されています。

基本料金を無料にしてみても良いですし、夜間料金を全て無料にすることもできます。介護世帯や子育て世帯だけを大きく割り引くプランを設計することも自由です。一方、昼間の電力料金単価を極端に高く設定して、その時間帯に電力を使うことを意識的に抑えるというプランを作っても良いでしょう。

新電力の中には、基本料金0円を訴求する会社もあれば、300kWhまでは一律電気料金を8000円とするなど、独自の料金設計をする会社も現れ始めています。ですが、多くの新電力はまだ大手電力と同様の料金体系を採用しており、今後は独自の料金体系の構築が求められています。

 

以上のように、電力情報サービスの提供や、独自の電力体系を構築している新電力事業者は、電力事業への想いや決意、そして一定の知見があることが担保されていると言ってよいでしょう。電力情報のサービス化や、料金設計は、単に電力を安く仕入れてきて安く売ろうという並の新電力事業者には大変に難しいことだからです。

自分の家の電気を任せる相手は、相応の電力ノウハウと志を持つ会社であってほしいものですよね。