経営資源を守るための電気設備点検―その概要と必要性

そもそも電気設備とは何を指し、法的に定められた点検に関する規定とはどのようなものなのでしょうか。電気設備の点検について解説します。また企業の経営活動にとって電気設備の点検はどのような意味があるのかも考えていきましょう。

 

電気設備点検の概要

電気設備の点検について、電気設備とはどのようなものを指すのか、またどのような規則により点検が義務付けられているのかを見てみましょう。

電気設備とは

電気設備学会参与の岩崎 訓尚氏は学会誌において、電気設備の定義について次のように定義されているとしています。

  • “「電気エネルギーを発生・運搬し、光・動力・熱・通信などに変換し、応用技術・利用技術により人間生活の向上と文明社会の発展を期する施設である。」”
    (電気設備工学ハンドブックより)
  • “「有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮する電気機器、装置、電線などの集合体。電気の発生、変換、搬送又は使用、雷保護、電食防止などのために施設するものがある」”
    (電気設備用語辞典より)
  • “「電気設備は、人とのインタフェース機能をもつ電気技術を応用したシステムであり、社会集団の中の社会インフラとして共用されるものである。」”
    (電気設備基本問題検討委員会の調査研究活動報告書より)

同氏は、電気設備工学分野での文献では定義の記述があるものの、いずれもプロ技術者向けの難解な表現であり、一般人向けの解説は見つけられないとしています。そのうえで、将来を担う電気工学系学部において電気設備に関することを教科に取り込み、知名度の向上を期待したいと結んでいます。

一方、電気事業法では「電気工作物」として次の3つに区分しています。

  • 事業用電気工作物
    発電所・変電所など電力会社の送電設備
  • 自家用電気工作物
    事業用電気工作物のうちビル・工場などで用いる600Vを超えて受電する設備
  • 一般用電気工作物
    一般家庭や商店などで使用する600V以下の電気設備

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電気設備の保安規制

電気事業法ではこれら3つの区分のうち、自家用電気工作物と一般用電気工作物について、保安規制を定めています。

  • 自家用電気工作物の保安規制
    電気工作物の維持に加え、保安規程の作成、届出、遵守など、自主保安による的確な保安管理が求められます。同時に国の自主保安補完と直接監督が一体となり、保安する体制の構築が必要です。ただし保安の監督にあたり、主任技術者の選任や外部委託が必要となります。
  • 一般用電気工作物の保安規制
    必ずしも所有者の電気知識が十分でないことから電力会社に保安が義務化されています。竣工調査や定期調査を行うこととされています。

 

電気設備点検の必要性

では、電気設備点検はそもそもなぜ必要なのでしょうか。その本質的な目的を考えてみます。

電気設備の事故

経済産業省では、最近の事故の状況として、ガス、電気、火薬それぞれについての事故状況を公表しています。

これによると、電気の供給事故件数と事故率は、2012年をピークに年々減少傾向にあり、周囲も同時に停電となる波及事故も同様に減少傾向にあります。

しかし、電気の供給に関する事故は減少していても、感電や欠損が原因の死傷事故は減っていません。

2015年の電気工作物による死傷事故件数は、電気事業用工作物で20件、自家用電気工作物で73件となっており、おおむね横ばいの推移となっています。

点検の意義

このように電気設備の事故は跡を絶ちません。電気設備は企業の経営活動において今やなくてはならないものであり、電気の供給が停止した場合、その事業損失は計り知れません。また周辺の建物や地域を巻き込んだ停電などの波及事故は、企業の信用までも大きく損失させるリスクを負っています。

電気設備の点検には、経営活動を維持するだけでなく、労働者の安全を守るという大きな意義もあります。電気設備の点検はこれらのリスクを最小化し、企業にとって大切な経営資源を守る、必要不可欠なものと考えるべきです。

 

ファシリティマネジメントとしての電気設備点検

近年注目される経営資源の運用手法として、ファシリティマネジメントがあります。ファシリティマネジメントは、建物を適切に管理し、その資産価値と経営資源としての価値を高めることで、建物や施設などファシリティの最適化を図ることを目的とします。

ファシリティマネジメントは、建物を物理的に管理するという面でビルマネジメント、プロパティマネジメントを含みます。そして電気設備点検は、この2つにおいて必須要素ともいえます。

このことから、電気設備の点検はファシリティマネジメントの観点から見ても大きな重要性を持っています。

 

電気設備の点検が経営資源を守る

電気の供給停止は、ヒト・モノ・カネ・情報など、重要な経営資源の動きを止めてしまうリスクを持っています。これは企業の経営活動がダウンしてしまった状態といえます。経営のダウンタイムを回避し、さらには人の命に関わる事故を防止する手段として、電気設備の点検は非常に重要なものなのです。

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