西日本豪雨から4年。当時の状況を振り返る

近年、毎年のように発生している豪雨災害。今後もいつどこで起こるかわかりません。当社の多くのお客様が事業所を構える岡山・広島も遡ること4年、甚大な被害をもたらした豪雨を経験しました。当時の状況や我々の経験を残すべく、本記事を執筆します。

西日本豪雨の全容

2018年7月、西日本を中心に全国各地を未曾有の豪雨が襲いました。内閣府のまとめによると2018年6月28日から7月8日までの総降水量は四国地方で1,800mm、東海地方で1,200mmを超えるところがあるなど、7月の月降水量平年値の2~4倍の大雨となったところがありました。また、九州北部、四国、中国、近畿、東海、北海道地方の多くの観測地点で24、48、72時間降水量の値が観測史上第1位となり、広い範囲における長時間の記録的な大雨となりました。

当時の当社の状況

雨脚が強まると共に、各地の事業所に設置している絶縁監視装置から立て続けに異常発生メールが届き始める。警戒感から社内に不穏な空気が流れ始める中、岡山県で大雨特別警報が発表される。
今夜は長い夜になるかもしれない……緊急対応担当者の懸念は的中することになる。

7月6日
19:40 岡山県        大雨特別警報発表
20:30 広島県広島市安芸区  通信異常発生
20:54 広島県広島市安芸区  停電メール発報
7月7日
00:00 岡山県小田郡矢掛町  通信異常発生
01:34 岡山県倉敷市真備町  髙馬川の堤防決壊
01:38 岡山県小田郡矢掛町  停電メール発報
04:50 岡山県岡山市北区津高 停電メール発報
06:30 岡山県倉敷市真備町  通信異常発生
07:20 広島県呉市      通信異常発生
07:48 岡山県倉敷市真備町  停電メール発報
07:57 広島県呉市      停電メール発報
09:30 岡山県倉敷市真備町  通信異常発生
19:20 広島県三次市     停電メール発報
etc.etc…

停電メールが発報される場合は端末は生きているが、通信異常の場合は「端末との通信が取れない」ということであるため、水没し故障したのだと思われた。
岡山県では矢掛、総社、真備、津高一帯で冠水、大停電。安全のため電力会社が送電自体を止めている地域もあった。

豪雨と暗闇の中を奔走する技術者

7月6日20:54

広島県広島市安芸区のお客様が停電。
担当技術者が車で向かったものの大渋滞が発生。電気が使えず、暗闇の中で待っているお客様がいることを考えると焦燥感を覚える。
当社の緊急対応担当から技術者に状況の確認連絡を行なう。
「道路が大渋滞で、まだ現地に到着していない。通行止めも有る」
技術者が急いでいても渋滞はどうにもならなかった。ただただ、気持ちばかりが急いていく。
渋滞の中、通行止めを迂回しながら何とか現地の1km手前まで辿り着くが、これ以上は車では進めそうになかった。技術者から当社の緊急対応担当に一報が入る。
「あと1kmくらいのところに居ますが、車では進入禁止になっていて近づけないです。ここまで来たので警察官に止められるかもしれないが、歩いて行ってみます」
自分の担当事業所である。責任感からの言葉が口を衝いて出た。
そこから徒歩にて現場へ向かい、7月7日03:00ごろようやく現地に到着。停電から実に6時間が経過していた。常ならば1時間で辿り着けた道程であった。
普段は煌々とした看板が辺りを照らしているが、この時は周囲の街灯さえも消えていた。暗闇の中、懐中電灯を片手に少しずつ進むと事業所の中に川が出来ていた。常軌を逸した光景の中、恐怖と共に立ち竦み周囲を見渡す。何か、出来ることはないか?
しかし暗闇の中であることに加え、土砂の流入まである状況では、何をすることも出来ない。一目で危険であると判断できる状況で、軽挙妄動は慎むべきであった。
当社の緊急対応担当に現状報告が上がった。
「現地の近くまで来たが、危なくて近づけません。土砂が構内柱の下に溜まっているように見えますし、周りが水浸しです。どうすることも出来ないので、帰ります。暗い中ですが写真を撮ったので、後で送ります」
悔しさと、徒労感が滲み出た声だった。

<技術者も恐怖を感じた夜間の現場>

7月7日 01:34

倉敷市真備町において髙馬川の堤防決壊。
真備在住の技術者も避難を余儀なくされ、降りしきる雨と巨大な河川と化した道路から轟音が鳴り響く中、身動きが取れず不安な夜を過ごすこととなる。

7月7日 01:38

岡山県小田郡矢掛町のお客様が停電。
担当技術者に出動要請を行なうものの、岡山全域が大雨特別警報の中、当地も避難勧告が出ている状況で現地に向かうことは不可能だった。
とはいえ、待っているお客様がいる以上、それで終わりという訳にはいかない。他の技術者が動けない時は自分が助けることもあった。互いに助け合える相手が多いのが、個人で仕事を請け負っている技術者には無い、協会員の強みである。即座に緊急対応担当者に要請があった。
「大雨で今動けません。他の技術者に対応をお願いして欲しい」
しかし、事態はそう易々とは進まない。当然である。大雨特別警報は広範囲に発表されており、担当技術者の居住地に限って起きていることではないのだから……。
「今、大雨でショッピングモールの屋上に避難しています。とてもでは無いが現場には行けない。夜明けにならないと対応不可能」
担当技術者と同様に、避難中で身動きが取れない技術者。
「家から近いので現場を見てみます」
別の技術者が対応を引き受け、現場に向かってくれたものの……
「現場に近づけません。警察が交通規制をしているのと、道路が冠水しています」
「今、矢掛町はほどんどの道路が冠水していて通ることができません。1~2日掛かると思います」
小田川の氾濫により寸断された交通網によって、現場に辿り着けない技術者。
堤防が決壊し、大洪水に見舞われている真備ほどではないかもしれない。しかし、決して他の地域の被害が軽いという訳ではなかった。
現場に辿り着くことすら困難な状況の中、技術者は奔走する。
電気を安全に使ってもらうために、自分たちの仕事がどれだけ重要なことなのかを理解しているから。誇りと責任感が軽々に諦めることを許さなかった。

長い夜を越えても……

7月7日 07:57

広島県呉市のお客様が停電。
一夜明けてしまえば状況が好転するという訳ではなかった。未だに警報は解除されておらず、新たな被害が報告されてくる。状況を確認するも、お客様も現地にたどり着けないとのことで、現場に訪問できたのは3日後の7月10日だった。
車では近づくこともできず、長靴がないと歩行不可能な状態。
建物内は腰ほどまで浸水した跡があり、床は泥まみれ、棚は軒並み倒れ、商品は山となり店舗の奥へ流されていた。津波が来たのかと思うような様子であった。

<豪雨から一夜明けたものの近づくことが困難な周辺状況>

<冠水したことがわかる受電設備>

<土砂が押し寄せた受電設備周辺>

7月7日15:10

大雨特別警報(土砂災害、浸水害)から大雨警報(土砂災害)に切り替わる。洪水警報継続。

7月8日22:41

大雨警報(土砂災害)から大雨注意報に切り替わる。洪水警報継続。
状況が状況なので、担当技術者が現場に向かえるとは限らない。技術者間で連携をとり、復旧対応を進める。
豪雨が過ぎ去っても残された土砂が片付く訳でもなければ、破損した設備が戻ってくる訳でもない。豪雨と暗闇の中を奔走した技術者たちが、今度は泥濘と強烈な日差しの下で復旧作業に奔走することになるのである。

後日のニュース

消防庁によると死者237名(広島県115名、岡山県66名、愛媛県31名、他府県25名)、行方不明者8名、重軽傷者432名の被害が発生しました。特に当社の事務所がある岡山・広島の被害が大きく、町ごと水没した岡山県倉敷市真備町の映像を目にした方もいらっしゃるのではないでしょうか。岡山県総社市ではアルミニウム工場に大量の水が流れ込み、爆発が発生。近隣では爆音とともに窓ガラスが砕け、家具が倒れ込むといった二次災害もありました。

最初の大雨特別警報が出てから4年経った2022年7月6日、各被災地で追悼式が開かれました。今なお仮設住宅での生活を余儀なくされている人もいますが、岡山では決壊した小田川の堤防かさ上げ工事が概ね完了、全体の工事も2023年度末に完了予定と着実に復興に向かっています。

被害を最小限に、今できること

このような豪雨は地球温暖化の影響があるとされており、西日本豪雨同様、あるいはそれ以上の規模の大雨が今後発生する可能性は大いにあります。河川の氾濫をもたらした熊本の令和2年7月豪雨、静岡県で土石流が発生した令和3年7月の大雨なども記憶に新しい事例です。これらの豪雨を教訓に、今後に備えて今できることを確認していきましょう。

1.ハザードマップの確認

今この記事を読んでいただいているまさにその場所に、どのような災害リスクがあるか把握していますか?国土交通省がウェブ上でハザードマップを確認できるポータルサイトを公開しています。→ハザードマップポータルサイト

2.避難経路の確認

災害が起こった際、まずは命を守る行動が最優先です。企業においては避難経路を明確化し、従業員に周知する必要があります。災害時に指揮を執るリーダーを複数名定めておくことや、避難訓練を定期的に実施することも重要です。

3.設備工事

建物や設備自体を強化しておくことも有効です。例えば受電設備では、床面の高さを上げる、受電設備自体を屋上に配置する、電気室への浸水を防ぐ扉を設置するなどが上げられます。工事には費用はかかりますが、災害時の被害を抑え会社の資産を守ることを考え一度検討してみてはいかがでしょうか。国土交通省と経済産業省が令和元年東日本台風を受け、「建築物における電気設備の浸水対策ガイドライン」を纏めています。具体的な取り組みが掲載されていますので、自社で採用できるものがないか確認してみましょう。

混乱の中駆け付けた電気主任技術者達

本記事の執筆にあたっては、一般社団法人中央電気保安管理技術者協会および、災害の中懸命に復旧活動を行った電気主任技術者の皆様からの情報提供とご協力がありました。
豪雨の中主任技術者は現場に駆け付け、通行止めや規制がある中でもできる限りの状況把握・対応を試みました。そして被害の爪痕が大きく残る中、お客様がいち早く事業再開に踏み出せるよう復旧に向けて最優先で竣工検査を行いました。
改めて、ご尽力くださった電気主任技術者の皆様に深く感謝申し上げます。ありがとうございました。