「スマート保安」という言葉を聞いたことはありますか?
近年、電気設備の保安管理において、IoTやセンサー、遠隔監視などのデジタル技術を活用する「スマート保安」が注目されています。
その背景には、電気設備を取り巻く環境の変化があります。
設備の高経年化が進む一方で、電気保安を担う技術者の高齢化や人材不足も深刻になっています。さらに、再生可能エネルギー設備の増加や自然災害の激甚化など、電気保安に求められる役割は以前よりも大きくなっています。
こうした課題に対し、経済産業省はIoT・AI・ドローンなどの新しい技術を活用し、「保安力の維持・向上」と「生産性向上」を両立させるスマート保安を推進してきました。
そして、2025年4月1日には、電気保安分野において大きな制度改正が行われました。
一定の条件を満たした需要設備では、低圧電路の絶縁状態に加えて「負荷の適確な監視」ができる装置などを設置することで、外部委託による保安管理業務の点検頻度を2か月に1回から3か月に1回へ延伸できるようになったのです。
今回は、そもそもスマート保安はなぜ始まったのか、そして2025年4月の制度改正で注目されている「負荷電流監視」とは何なのかを分かりやすく解説します。
スマート保安が求められるようになった課題
電気保安を取り巻く「人」と「設備」の問題
スマート保安が推進される大きな理由の一つが、電気保安人材を取り巻く環境の変化です。
経済産業省が2021年にまとめた「電気保安分野 スマート保安アクションプラン」では、電気保安を取り巻く課題として、
・電気保安を担う人材不足
・電気設備の高経年化
・自然災害の激甚化
・再生可能エネルギー設備の増加
・新型コロナウイルス感染症拡大下における保安業務の継続
などが挙げられています。
つまり、これまでと同じ方法で人が設備を巡回し、測定し、記録するという保安の仕組みだけでは、将来的に安全を維持することが難しくなる可能性があります。 そこで重要になるのが、「人が行なっていた確認の一部をデジタル技術で補う」という考え方です。
スマート保安の歴史と、2025年4月の制度改正
スマート保安は突然始まったものではありません。
スマート保安という考え方が注目される以前から、電力分野ではIoT、AI、ビッグデータなどのデジタル技術を活用する動きが進んでいました。
経済産業省も2017年には「スマート保安先行事例集」を公開しており、保安分野における新しい技術の活用事例を紹介しています。
その後、2020年には経済産業省の「スマート保安官民協議会」が設置され、官民が連携してスマート保安を推進する体制が整えられました。
さらに2021年には、電気保安分野について「スマート保安アクションプラン」が策定されました。
このアクションプランでは、IoT・AI・ドローンなどの新技術を導入することで、保安力を維持・向上しながら生産性も高めることが目標として掲げられています。
つまり、スマート保安は単なる「新しい機械を導入する」という話ではなく、電気保安を持続可能なものにしていくための政策・技術面での取り組みとして進められてきたのです。
そして2025年4月、点検頻度の延伸へ
こうした流れの中で、2025年4月1日に電気保安制度の一部が改正されました。
2025年3月31日付で「電気事業法施行規則第五十二条の二第一号ロの要件等に関する告示」の一部改正が公布され、4月1日から関連する制度・運用が改正されています。
今回の改正で注目したいのが、一定の条件を満たす需要設備について、外部委託による保安管理業務の点検頻度を3か月に1回以上へ延伸できるようになったことです。従来のスマート保安関連の仕組みでは2か月に1回への延伸がありましたが、今回さらに3か月に1回という選択肢が加わりました。
ただし、すべての設備が対象になるわけではありません。 対象となるためには、設備そのものの信頼性に関する条件に加えて、低圧電路の絶縁状態を監視できる装置、負荷を適確に監視できる装置、さらに主遮断装置等の設備更新計画など、複数の要件を満たす必要があります。
「負荷電流監視」とは?
今回の制度改正を理解するうえで重要になるのが「負荷電流監視」です。
負荷電流とは、簡単に言えば、電気設備で実際に使用されている電流の大きさです。
工場や店舗などでは、時間帯や稼働状況によって使用する電力量が変化します。
例えば、
「昼間に設備が集中して稼働する」
「大型空調設備を使用すると電流が大きくなる」
「生産設備の増設によって以前より電流値が高くなった」
といった変化が起こります。
こうした負荷の状態を、技術者が点検時に一度確認するだけではなく、監視装置によって継続的に把握するのが負荷電流監視です。
これにより、現場に行かなくても設備の負荷状況を把握できるようになります。
さらに、一定以上の負荷が継続した場合に警報を出すことで、過負荷状態の早期発見にもつながります。
電気設備の事故を防ぐためには、設備に異常が発生してから対応するのではなく、異常につながる兆候をできるだけ早く把握することが重要です。
負荷電流を継続的に監視すれば、
「いつもより電流値が高くなっている」
「特定の時間帯だけ負荷が大きくなっている」
「設備の増設によって変圧器への負荷が増えている」
といった状況を把握しやすくなります。
つまり、負荷電流監視は「点検の回数を減らすためだけの仕組み」ではありません。
設備の状態を継続的に把握することで、異常の兆候を早期に発見し、必要なときに技術者が対応する。 この考え方こそが、スマート保安の重要なポイントです。
技術者の経験とデジタル技術を組み合わせる電気保安
スマート保安を考えるうえで重要なのは、「デジタル技術を導入すれば、人による点検が必要なくなる」ということではありません。
むしろ、現場を知る技術者の経験や判断力と、IoT・センサー・ドローンなどのデジタル技術を組み合わせることで、これまで以上に効率的で確実な保安を実現することがスマート保安の考え方です。
その具体例の一つが、岡山県笠岡市の谷本牧場様です。
谷本牧場様では、当社と2003年から20年以上にわたって電気保安点検のお取引を続けています。牧場という施設の特性上、屋外とつながる設備が多く、降雪による結露や動物の巣などが原因となる電気設備のトラブルも発生してきました。
そうした際には、技術者が現場へ駆け付け、設備の状況を確認して対応してきました。時には設備周辺の清掃を一緒に行うなど、現場でのきめ細かな対応も電気保安を支える重要な要素となっています。
一方で、谷本牧場様では2017年に太陽光発電設備を導入しており、こちらの点検ではドローンやサーモカメラといった新しい技術も活用しています。
ドローンによって人が近づきにくい場所を上空から確認し、設備の破損や汚損などを確認する。さらにサーモカメラを使って温度の異常を捉え、目視だけでは発見しにくい異常の早期発見につなげているのです。
このように、デジタル技術を活用することで、技術者が行う点検をより効率的かつ的確なものにすることができます。
「人」と「デジタル」の組み合わせがスマート保安です。
谷本牧場様の事例からも分かるように、電気保安において大切なのは、技術者による現場対応とデジタル技術を対立させることではありません。
現場で設備を確認し、異常の原因を判断して対応するのは、経験や専門知識を持った技術者の重要な役割です。
その一方で、ドローンやサーモカメラ、各種監視装置などを活用すれば、広い範囲を効率的に確認したり、異常の兆候を見つけやすくしたりすることができます。
つまり、
「人が判断する保安」+「デジタル技術による監視・検知」
という組み合わせによって、限られた人材でも保安力を維持・向上させていくことが、これからの電気保安に求められていると言えるでしょう。
2025年4月の制度改正で注目されている負荷電流監視も、こうした考え方の延長線上にあります。
設備の状態を継続的に把握できる環境を整え、異常の兆候を早期に発見する。そして、必要なときには専門の技術者が現場で確認・対応する。 スマート保安とは、単純に「点検を減らす」ための仕組みではなく、デジタル技術を活用して、技術者の保安業務をより安全・効率的にするための仕組みなのです。
要点まとめ
今回のポイントをまとめると、以下のとおりです。
スマート保安とは?
IoT・AI・センサー・遠隔監視などの新しい技術を活用し、保安力の維持・向上と生産性向上を両立するための取り組みです。
なぜ必要になった?
背景には、
・電気保安人材の不足
・技術者の高齢化
・技術継承の難しさ
・電気設備の高経年化
・再生可能エネルギー設備の増加
・自然災害の激甚化
などの課題があります。
2025年4月1日の制度改正で何が変わった?
一定の要件を満たす需要設備では、スマート保安技術を活用することで、外部委託による保安管理業務の点検頻度を2か月に1回から3か月に1回へ延伸できるようになりました。
負荷電流監視とは?
変圧器の負荷電流などを継続的に計測し、遠隔地から監視・警報できるようにする仕組みです。
制度上は、単に電流を測るだけではなく、連続計測、30分ごとの記録、1年以上のデータ保存、遠隔監視・警報など、所定の要件を満たす必要があります。
スマート保安は「点検を減らす」だけではない
スマート保安の本質は、点検回数を減らすことだけではありません。
「人が現場で確認する保安」と「デジタル技術による常時監視」を組み合わせることで、限られた人材でも安全を維持できる保安体制をつくること。
これからの電気保安では、この考え方がますます重要になっていくでしょう。
2025年4月の制度改正は、その流れをさらに一歩進めるものと言えます。 今後、電気設備の保安管理を考える際には、「従来どおりの点検を続ける」という選択肢だけでなく、負荷電流監視などのスマート保安技術を活用して、より効率的かつ継続的に設備状態を把握するという選択肢にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
▶お問い合わせはこちら
参考
電気保安分野 スマート保安アクションプラン|経済産業省
スマート保安|経済産業省
第2回スマート保安官民協議会|経済産業省



